「大丈夫?顔色悪いよ」杉本が心配そうに田中の顔を覗き込む。
「いえ、大丈夫です」
あのあとのことを田中はよく覚えていない。だが、あの瞬間、昼間の会話を思い出したのは確かだった。
(他人の空似だ)
そう思うことにした田中だったが、簡単には忘れられない。
「しっかり休めよ」
金田が言う。
「余計なお世話だ」
なるべく明るく答えた。
「資料室に行ってくれないか」
そう課長に頼まれたのは昼休み前のことだった。
「課長から頼まれた、と言えば伝わるだろう」
そう言って課長はどこかへ行ってしまった。
(引き受けるとは言ってない…)
田中は心の中で愚痴をこぼす。
資料室はオフィスからそう遠くはない。
「さっさと終わらせよう」 資料室前に立ち、田中はドアをノックする。返事はない。
「失礼します」
ドアを開けると目の前に人が立っていた。
「すみませ…」
そこにいたのは、自分、いや、自分と同じ姿をした男が立っていた。