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小説 彼のための世界#38 |
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鯨 |
3/13 23:13 |
日が暮れるのは速いもので、夕日が空を赤く染めていた。
「とりあえず、帰るか」
カイトが言う。
「佐藤めいのことも気になるけど、仕方ないわね」
こうして僕達は宿屋に戻った。食事は途中立ち寄った店で「ムル」と呼ばれるものを買った。夏祭り等で見かける、はし巻きのような見た目をしており、この世界では一般的に食べられているという。
「俺は好きだけど、転生者の中では好き嫌いが別れるんだ」
僕の部屋でムルをかじりながらカイトは言う。僕も一口食べた。
「意外といけるな」
周りの生地はもちもちしており、中の卵のようなものはぷちぷちしている。新鮮な感覚だ。
「やっぱり、ここにいたんだ」
扉が開き、莉央が入ってくる。
「この宿屋、たくさんの人が泊まってるみたい。モモさん達もいたわ」
僕は昼間のモモの様子を思い出す。何か隠してそうな素振りを見せていた。
「今、どこにいるのかな?」