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小説 彼のための世界#42、5 |
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鯨 |
3/20 22:25 |
「仕留め損ねたか、柿」
コザルは目の前でひざまづいている女を見下ろし、言った。
「申し訳ございません。先に魔女を始末しておくべきだったと…」
「俺は反省が聞きたい訳じゃない」
コザルは女の言葉を遮る。
「今、勇者はこの町にいる。お前のすべきことは何か…わかるよな?」
「…はい」
女は一言発し、姿を消した。
「…にしても、王はなぜあの子供を監視するよう、俺に命令したのだろうか…」
コザルは昼間会った少年を思い浮かべる。勇者はもちろん、この先自分らを脅かす存在になるとは思えなかった。
(王は未来でも見えているのか?)
自分には見えないものが、彼には見えているのかもしれない。
「『何も考えず、上の道具になるのも一つの手』…か」
今は亡き友の言葉を思い出し、コザルは顔を歪めた。