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小説 彼のための世界#43 |
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鯨 |
3/26 18:7 |
(右十二、左八、左四、右十…)
柿は病棟の中を歩いていた。明かりはなく真っ暗なため、建物の構造を頭に入れ、壁を伝いながら進んでいた。
(右十一、右六、左一…)
柿は足を止める。目の前には扉があった。
(この向こうに勇者が…)
腰の短剣に手を伸ばす。すると背後から気配がした。短剣を抜き、後ろへ振る。布を裂く感覚があった。
「ったく、危ねぇな」
男の声がする。目を凝らすと人が立っていた。
「お前…Euclidを襲った奴か?」
勇者を呼び捨てにする辺り、親しい関係のようだ。
柿は悩んだ。この男を始末するべきか。真実を知っているわけではないだろう。しかし、これから邪魔な存在になることは予想できた。短剣を構え、目の前に突き出す。男を消すことに決めた。