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小説 彼のための世界#44 |
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鯨 |
3/27 22:28 |
目の前に突き出された短剣をうちゃこんは避ける。そして女がいるであろう場所に蹴りを入れた。手応え、というか足応えはなかった。
(どこだ)
うちゃこんは気配を探る。
(まさかこんなところで役に立つとは…)
うちゃこんは宮廷で、Euclidから暗闇で戦う方法を教え込まれていた。音楽家である彼にとって武術は必要ではなかった。しかし、今こうして友人を守るために役立っている。
『お前の悪い予感は当たる』
過去にEuclidから言われたことを思い出す。今回うちゃこんは「悪い予感」に従ってここに来た。そこで怪しい人影を見かけ、この状況に至る。
「お前の目的は何だ?」
うちゃこんは暗闇に呼び掛ける。
「…」
返事はない。うちゃこんは舌打ちする。返事があれば、その声で居場所がわかるからだ。
(流石にこんな小細工は効かないか…っ!)
気配を感じ、うちゃこんは急いで振り返る。短剣が眼前に迫っていた。