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小説 彼のための世界#52 |
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鯨 |
4/10 22:58 |
無駄がない。武道の経験のない僕でさえそう思うほど、うちゃこんの動きは無駄がなかった。柿の短剣をかわしたと思ったら、次の瞬間には拳を突き出している。振りかぶる動作などは全く見えない。昼間のうちゃこんからは想像のできない姿だった。
「ははっ。俺、意外とたたかえてる」
うちゃこんが蹴りを放ちながら言う。柿は汗を拭いながらそれを避けた。すかさず短剣を振り下ろす。
「っ!」
刃がうちゃこんの服を裂いた。短剣には少量の血がついていた。
「痛てーな、このやろう」
うちゃこんは顔を歪めながらも反撃する。両者共、一進一退の攻防を繰り広げている。しかし、
「おらっ」
うちゃこんの蹴りが柿の体に入った。柿は軽く吹き飛び、壁にもたれかかる。それを見逃さず、うちゃこんは柿に近づいた。すると、
パァーン!
銃声がした。直後に何かが倒れる音がする。音がした方を見ると、Euclidが膝をついて、腹を押さえていた。