「オレ1人の力で、何が変わったんでってんだ」
独り言に近い抑揚で、琴は静かに嘆いた。
何を思ったのか、握り拳の力が増す。
「何が言いたいんです?」
天使は、相変わらずのトーンで琴に問う。
疎くなった琴は、叫んだ。
「だあから、俺は何回も金をくれてやったんだ!なのに…小せえ筆箱くらい…いいだろ別に」
「自己中ですね」
「知っとるわ。ボケ」
ぶった切る天使は、どこか哀愁が漂っていた。
そこがなんだか人間臭くて、琴の怒りは収束していく。
自分が死んだことによる開放感と肩の重荷が落ちた気がして、死後の不思議な雰囲気に半ば酔いしれるように、琴は溜息をつく。
「いやあ、どれだけ徳を積んでも、たった一度の愚行で全てがパー。理不尽ですね、人間の世界というものは」
何を言ってるのかこの天使は。
いくらなんでも、人間界と死後の世界が密接なのは誰だって察せる。
だが、こいつはとことん分からない。