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[連載小説]ヒット。(#45.5) |
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入江 |
1/8 20:49 |
フェアリーは椅子に座るよう促すと台所の方へ消えていった。辺りを見渡すが、めぼしいものは何もなく、なんとなく寂しい印象を受けた。だから、そこにあるものが目立って、目に留まったのかもしれない。
窓辺に白い棚が設けられていて、棚の上には写真たてと花が花瓶に差されて置かれていた。
写真には幸せそうな家族が写っている。満面の笑みで母親に抱かれている娘と、そのよこで二人を見つめ、微笑む父親という構図だ。父親は東洋人らしく、黒髪で優男のような雰囲気が漂っていた。母親の方は金髪で色白な肌をしていて、父親よりも背が高かった。娘は綺麗な黒髪で、後ろで束ねてポニーテールにしている。父親似だ。
____だが、気になったのはそこではない。私は“この母親の方には見覚えがあった”のだ。
「メシの準備はできたぞ。 赤ワインでじっくり煮込んだビーフシチューとサーモンのウォッカの塩漬け、カリッと焼いたフランスパンにサラダを挟んだバケットサラダだ。 旨いぞ」
料理一式が広げられて、簡素だったテーブルが一気に彩られた。どれもこれも美味しそうでお腹が減っていたことを急激に思い出した。