鯨が奥の扉を開く。そこはひらけた空間で、車が数台並んでいた。鯨はその中の一台の前に立つ。
「キャンピングカーか…」
「うおっすげー!一度乗ってみたかったんだよ」
梶は目の前のキャンピングカーに興奮している。
「いくらだ」
青山が尋ねた。
「一週間で十万」
鯨が低い声で言う。
「なるほど。じゃあ一週間借りよう。一週間後に金は用意する」
鯨は何も言わない。だが青山はそれが彼の了解の証だと知っている。
「また一週間後に」
店を出る際、青山は軽く手をあげて言った。鯨も小説を持った右手を顔の横にあげる。そのとき小説に「ドッペルゲンガー」と書いてあるのが見えた。
(妙な小説だ)
青山は、より鯨のことを不思議に思った。