氷雨たちが住んでいる狩場村は、その名の通り狩人が集う村でした。大国アテナイの背後にそびえるオリュンポス山脈の丁度中腹あたりにあり、男たちは秋の終わりから春の始めまでオリュンポス山脈を駆け巡り狩をします。獲れた鹿や猪などをアテナイの市場で売りに出すのです。氷雨の父も今は狩の真っ最中でした。
そんな山奥ですから、かの「食せば永久の命が得られる」というおうどんの噂話がやってきたのも他と比べ随分遅かったと言えるでしょう。良くも悪くも、氷雨は母の重病という人生の分かれ目でこの噂を聞いたことになります。当然のように彼女の頭に「あの噂が本当なら、おうどんを食べさせれば母は元気になるかもしれない」という考えが湧きました。そしてその考えは氷雨の中で日に日に大きくなって行くのでした。