狩場村の住人たちは皆、旅慣れていました。隣国アテナイとの間の長い道のりを何度も行き来しているからです。氷雨も例外ではありません。氷雨は干し肉やパンなど4日分と小刀、父の弓の一つと箙、さらに寝具など必要最低限のものを手早く用意しました。そしてそれらを氷雨が飼っている馬のキトセンに積みました。それから、手紙を二通書きました。一通は父に事のあらましを綴ったもの、もう一通はアスペルガー先生に母のことをよろしく頼むという内容のものです。することを全て終えると、氷雨は皆が寝静まる真夜中までじっと待ちました。もし氷雨が一人旅に出るといえば、必ず村の人々に止められるだろうと思ったからです。
時間がやってきました。この時の氷雨は住み慣れた家を離れる事に全く抵抗がありませんでした。母の事で頭がいっぱいだったのです。後々氷雨は旅立った事を深く後悔することになります…。