青山と梶が登を連れて車から降りる。登は両手足を縛られていた。
(気の毒に…)
青山は登を見て思う。実際、それが本心なのか青山自身もわからない。そのような感情はとうの昔に消えている。ただ登の置かれている状況を表す言葉を、思い浮かべただけかもしれない。
黒い車の運転席から、女が降りてきた。そして縛られている登を見て、叫び声を漏らしそうになっていた。急いで後部座席のドアを開け、スロープを設置した。中から車椅子に乗った男が出てきた。顔中に包帯を巻いている。
「約束通り二人で来たぞ。早く息子を返せ!」
岸本晶がしゃがれた声で叫ぶ。
「二人はいるな」
梶が小声で言う。青山は頷き、黒い車を見た。確かに、岸本夫婦以外にも人の気配がする。
(あれだけ言ったのに…)
青山は思わずため息をつきたくなった。