__●●鎮守府:空母寮__
何かを掴むようにつき出したはずの右手は、虚しい虚空をさ迷うばかりだ。
「翔鶴…」
誰に言うでもなく呟く言葉は、無となり、反響さえ呼ばず、ただただ消えていく。
会いに行こうか、翔鶴に。
思い立ったが吉日。加賀は髪を結い、いつもの服を着て、寮を出た。
提督には休暇願いを提出し、受領された。おまけにちょっとしたボーナスまで与えてくれた。いい指揮官である、と記憶のメモ帳に書き込んでをこう。
翔鶴の住む家は町外れの一軒家だ。誰も近づく者などいない。
車を走らせること一時間あまり、やっと翔鶴の家に着いた。
木造二階建て、一人暮らしにしてはかなりいい家だ。
何故こんなところに住んでいるのか?まぁ、人間生きていれば色々あるものだ。
この家にはインターホンという物が無いので、ドアを素手で叩き、客の到来を告げる。