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[短編:3]ー彼岸花ー |
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入江 |
6/10 21:27 |
ドアが来訪を告げる。コンコンコンと抑制したノック。私の家に来る人は大体決まっている。
「どちら様?」
だが、用心は必要だ。慢心は失敗を生むと身に染みている。
木の板を介して聞こえてくる声は、聞き覚えのある、艶やかでどこか冷たい声だった。
「翔鶴? 今日空いてるかしら。」
加賀さんだ。声だけでもわかる。鍵を外し、ドアを開け、招き入れる。礼儀正しく、お邪魔します。といって加賀は家に入った。
私は加賀さんに椅子に座るよう促し、加賀さんの好きな紅茶を淹れることにした。
加賀さんが私の所に来るときは、あの日の夢を見た日か、単に寂しくなったときだと気付いていた私は、てきとに見当をつけてみた。加賀さんの表情、唇の色、目のいく場所など、様々な箇所を観察し、__あぁ、これは夢だなぁ、という結論にたどり着いた。
ふふ、っと思わず笑ってしまう。だってそんな加賀さんが可愛のだもの。
紅茶とクッキーを御盆に載せて、加賀さんの待つリビングへと持っていく。ガラスでできた長丸の机に紅茶とクッキーを並べ、加賀さんと対象の位置にある一人用ソワァに腰を下ろす。