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小説 彼のための世界#13 |
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鯨 |
2/17 23:1 |
「さ、準備しましょうか」
莉央が手を叩くと、子ども達は一斉に散らばった。
「田中も行くぞ」
カイトに言われ、僕もついていく。辿り着いたのは調理室だった。
「はい、これ」
莉央からエプロンを渡される。僕は不器用な手つきで装着した。僕に任されたのは、野菜を切る簡単な仕事だった。とはいえ、この世界の野菜は初めて見るものがほとんどで、切り方がわからない。
「こうするんだよ」
隣の男の子が言う。小学生くらいの子どもに教わるのは妙な気分がした。
「君、何歳だい?」
大人の男が僕に近づき、尋ねてきた。
「18です」
「そうか…かわいそうに」
きっと早く死んだことを言っているのだろう。どうやらこの人も転生者のようだ。
そこからはよく覚えていない。しかし楽しかったのは覚えている。完成した食事は豪華なものだった。歓迎用、だからだろうか。
「うまいか?」
隣に座るカイトが尋ねる。
「あぁ、うまい」
ふと寂しくなった。もうあちらの食事は食べられない。そうか、死んだのか。気づけば涙を流していた。