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小説 彼のための世界#16 |
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鯨 |
2/20 19:4 |
廊下の角を曲がる。もうすぐ出口か。
「くそっ。何でこんなことに…」
カイトが言う。
「今は、サンプルさんを信じよう」
莉央が言うが、その声は震えていた。僕はまだ、状況を把握しきれていない。まるで夢の中にいるような感覚だった。いや、夢であってくれ、と願っているだけかもしれない。
「あそこだ!」
カイトが指差した方には、扉があった。しかし、突然天井が崩れ、道が塞がれた。
「嘘だろ…」
目の前には、先程の魔物と似た巨竜が降りたっていた。魔物が吠える。僕達は動けなかった。もう、諦めていた。魔物が口を大きく開き、僕達に襲いかかった。走馬灯は見えない。またかよ。僕は目を閉じる。すると、魔物の叫び声が聞こえた。同時に、ボトッと何が落ちる音がした。恐る恐る目を開ける。足下に巨竜の首が落ちていた。
「え?」
何が起きた?
「大丈夫か?」
声がする。顔を上げると、巨竜の体の上に、大鎌を持った金髪の男の姿が見えた。