「最近、出るみたいよ」
杉本香織が隣の机に向かって話し掛ける。
「仕事中ですよ」
田中歩はパソコンの画面を見たまま言う。
「いいじゃん、課長いないし」
杉本は誰も座っていない机を指差した。そういう問題じゃない、と田中が言おうとした時、向かいの机から、
「何が出るんですか?」
と、金田純が身を乗り出して訊ねた。
「ドッペルゲンガーよ」
思わず田中は吹き出しそうになる。
「なんすか、それ」
金田が訪ねる。
「知らないの!?ほら、自分とそっくりな人間で、出会ったら死ぬってやつ」
杉本が説明する。
「へぇー。怖いっすね」
「それがこの辺りに出るんだって」
「へぇー。怖いっすね」
金田のワンパターンな返事を聞きながら、田中は呆れる。
(大の大人が何を話しているのやら…)
「田中くんはどう思う?」
杉本が訪ねる。
「へぇー。怖いっすね」
田中は適当に返事をした。