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[短編:9]ー彼岸花ー |
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入江 |
6/16 23:48 |
いざ寝ようと布団に入ると眠気が消えた。まったく、さっきまでの眠気はどこに消えたのやら。何度となく寝返りをうち、目をつぶり、寝ようとするが眠れる気がしないほど目が冴えわたっている。
と、そのときだ。翔鶴が階段を上がってくる足音が聞こえてくる。キィキィと階段の軋む音だけが、この家に響く。
隣の部屋の扉が開く音がした。
が、閉じる音がしない。不信に思っていると、足音が私の部屋へと近いてくる。反射的に扉に背を向ける。
「…寝ましたか…?」
小声で囁くように翔鶴は言った。私は黙った、俗に言う寝たふりだ。廊下の電気はついていないようで、光が漏れてこない。
「……」
扉がしまる音と同時にペタペタというような素足の足音がきこえてきた。翔鶴が部屋に入ってきたのだ。思わず肩がびくついたが、できるだけ抑制した。
布団を捲られ、こもった空気が外に逃げ出した。翔鶴の足は冷たく、リビングで風呂あがりに一杯やったのが感じとれた。
「…瑞鶴…」
そういって翔鶴は私を抱き締めた。背中が湿ってきたのは、きっとそういうことだろう。私は黙って寝たふりをする。
それが私のできる唯一の罪滅ぼしだ。